ダイヤモンド価格が下落している。業界は、新型コロナウイルス禍による一時的な需要減によるものだとする。しかし主な原因は合成ダイヤ需要の拡大だ。希少性は一部の特別な天然ダイヤにしか残されていない。天然ダイヤの価値を取り戻すには、業界は産地を明確にするとともに、新たな宣伝を考える必要がある。

 高級ブランドの伊ブルガリや米ティファニーを傘下に抱える仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは4月、人工合成ではない天然のダイヤモンドの価値を見事に持ち上げてみせた。

 同社のグループ・マネージング・ディレクターを務めるステファン・ビアンキ氏が「ジュエリーでは、我々は天然ダイヤモンドを使う。最も美しい宝石は天然ダイヤだと我々は考えている」と語ったのだ。

 素晴らしい考えだが、厳密に言うと筋が通らない。合成ダイヤは、何億年も昔に地中深くで形成された純粋な炭素の結晶である天然ダイヤと、見かけが同じであるだけでなく、物質として同一なのだ。

 高額な支払いを正当化する「美しさ」は、見る者の目の中にあるに違いない。

 オーストラリアの資源世界最大手BHPグループが4月、同業の英アングロ・アメリカンに310億ポンド(約6兆円)での買収を提案した。これにもダイヤモンドが関係している。ダイヤモンドの世界大手デ・ビアスは、アングロ・アメリカンの傘下企業なのだ。ただし、BHPが主に関心を寄せているのは宝石ではなく、アングロ・アメリカンが保有する銅鉱山だ。デ・ビアスは、長年扱ってきたダイヤの需要が低迷しているため、生産を減らしている。

 ダイヤモンド業界は、需要減を新型コロナウイルス禍の中で実施されたロックダウンのせいにする。ダイヤモンドの売れ行きは、第2次世界大戦後にデ・ビアスが「ダイヤモンドは永遠の輝き」という広告を打って以来、指輪でプロポーズをする人々に支えられてきた。婚約数はまだパンデミック前の水準まで回復していないし、宝石業界関係者によれば、最初のデートからプロポーズまでの平均3年という期間を踏まえると、状況はこれから好転するのだという。

 しかしこれは、十分な説明というより言い訳に聞こえる。天然ダイヤ価格は、2022年に急騰した後に下落し、現在は前年比で20%近く下がっている。10年前よりも低い水準だ。

 ジュエリー価格を巡る興奮は、今では金製品に見られる。その一因は、中国の顧客が安全な資産価値を持つ金の装身具を選ぶようになったことにある。

合成ダイヤ価格は天然の3割

 価格が下落した背景には、合成ダイヤの生産拡大と、それが天然ダイヤの安価な代替品として市場で受け入れられている現実がある。

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