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サラマンダー (妖精)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フランソワ1世の居城シャンボール城のサラマンダーのレリーフ
ウィーン写本」(6世紀)より、サラマンダー
14世紀の動物寓意譚の写本より、サラマンダー

サラマンダーsalamandersalamandra)は、中世錬金術における四大精霊のうち、火を司る精霊妖精(elementals)。あるいは西洋博物学における、火に耐えて生きる伝説的な動物。

サラマンデルサラマンドラとも呼ばれる。手に乗る位の小さなトカゲもしくはドラゴンのような姿をしており、燃える炎の中や溶岩の中に住んでいる[1][2]炎を操る特徴からファイアー・ドレイクと同一視されることもある[要出典]

概要

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イモリ類: salamander)は、火の中で生きることができる生物だと考えられていた。体温があまりに冷たいため火を寄せ付けず、あるいは火を消し去るのだという。薪の隙間に入り込んでいたイモリが[3]、薪ごと火にくべられ、体液が多いためすぐには焼け死なずに逃げ出す様子からそう信じられたという。

古代ヨーロッパの自然史(博物学)においては、アリストテレスプリニウスのような古代の学者もそのように記述したため[4]、実験によっていずれ焼け死ぬことを確認した者が複数いたにもかかわらず、中世を通じてこの迷信は続いた。18世紀に到ってもそのように述べた書物が出版されている。

さらには火を燃え上がらせる霊能を持つともされ、ゾロアスター教徒は聖火を高く燃え上がらせるためにサラマンダーをくべた。16世紀にパラケルススは四大精霊中の火の精霊をサラマンダーとした。それまで火の精霊は人間型、特に女性の姿の火精という観念もあったが、これ以降はトカゲあるいはサンショウウオの形という考えが一般的になった。ただしパラケルスス自身は四大精霊は人間に近い形と考えていた。

象徴

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象徴としてのサラマンダーは、苦難に負けずに貫き通される信仰や熱情にとらわれない貞節、善なる火を燃え上がらせ悪なる火を消し去る正義を表すとされた。

図像学・紋章学

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紋章学では火のように燃え盛る勇猛や豪胆を意味する。初期の紋章では炎に囲まれた犬のような描写をされていたが、時代が下るにつれ現実のサラマンダー(サンショウウオ)やトカゲのように描かれるようになった。フランス王フランソワ1世は「Nutrico et extinguo(我は育み、我は滅ぼす)」というモットーと共にサラマンダーを己の紋章とした。

アスベスト布

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中国では火鼠の毛から火浣布という不燃性の布が織られるが、これは「火で浣(あら)う」と呼んで字のごとく、火にくべれば真っ白く清潔になるとされた[5]。これはじっさいには獣毛の織物などではなく、鉱物を加工したアスベスト布のことだと考証される[6]ベルトルト・ラウファーは、中国がアスベストを知ったのは西洋からの伝承だと提唱した[注 1]、サラマンダーに関しても、アラビア人の著述によれば14世紀以前には、狐やに似た「サラマンダー」から石綿がとれるとしており(すなわち中国の火鼠・火浣布と同様)、このような伝承はすでに10-11世紀頃には中世ヨーロッパに伝わっていたのではないか、とラウファーは推論した[7]。すなわちある時期(十字軍時代頃)において、石綿で作られた燃えない布は、ヨーロッパ人のあいだでもサラマンダーの毛から織られたものと考えられるようになっていた。

毒性

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また、サラマンダーは恐ろしい毒をもつと過大評価された。木の中に入り込んだだけで果実を致死性の毒物に変え、その止まっていた石の上に置いたパンを食べただけでも命に関わるという。そのように強力な毒をもつからには強力な薬効もあるだろうと考えられ、強壮剤や催淫剤、脱毛剤などになるとも考えられていた[要出典]

脚注

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注釈
  1. ^ 魏略』(3世紀)や『後漢書』に、火浣布が大秦国(ローマ帝国またはローマ統治下オリエント)の特産とする記述を傍証とする。
出典
  1. ^ 『オカルトの辞典』1993年、180頁
  2. ^ 『モンスター・コレクション 改訂版 上』1996年、298-304頁
  3. ^ 日本のイモリ・サンショウウオは水棲のものが多いが、ヨーロッパでは森林棲のものがよく見られる。
  4. ^ プリニウスは斑点模様を持つ事、乳様の液体を出す事を記述しており、これはヨーロッパで一般的なファイアサラマンダーの特徴と一致する。また、雨の後によく見られるとも記述している。
  5. ^ 李時珍 (著); 鈴木真海訳 (1930). “獣部第五十一卷 火鼠”. 頭註国訳本草綱目. 春陽堂. p. 403. https://archive.org/details/kokuyakuhonzkmok12lishuoft/page/430/mode/2up 
  6. ^ 城福勇火浣布再説」『科学史研究II』第21巻第144号、1982年、193–200頁。 
  7. ^ 和田清ベルトルド・ラウフェル氏〈石綿と火鼠:東西俗伝の比較研究〉」『東洋学報』第7巻第1号、1917-0、140–141頁。 

参考文献

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関連項目

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