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球根

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1. チューリップ (ユリ科) の球根(鱗茎)とその断面

球根(きゅうこん)とは、多年草が生育不適期を過ごすために地下茎などに養分を蓄積して形成された貯蔵繁殖器官の総称である。生育不適期に他の部分が枯れても休眠状態となって残り、好環境になると再び地上部や根を生じる。おもに観賞植物の園芸において使われる用語であり、植物形態学的には塊根、根茎、球茎、塊茎、鱗茎などさまざまな器官を含む。特に観賞植物の園芸分野では、球根をもつ植物は球根植物とよばれる。

定義

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球根とは、多年草地下茎などに養分を蓄積して肥大化した器官である[1][2][3]。寒暑や乾燥など生育不適な時期に他の部分が枯れても、球根が休眠状態で残り、環境条件が好転すると茎葉や根を生じて成長・繁殖を行う[4]。これを利用して、園芸では植物の繁殖に使われる。また、球根をもつ植物は、球根植物または球根類とよばれる[4][5]。特に観賞植物の園芸において使われる用語であり、野菜園芸などでは、サトイモサトイモ科)のように明らかに球根に相当する構造をもつ植物でも球根植物とはよばれず、またその構造も「種いも」などとよばれる[4][6][7]。また球根をもつ観賞植物であっても、サギソウラン科)やリアトリスキク科)、キキョウキキョウ科)などは慣習的に球根植物とはよばれないことが多い[4]

構造

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球根とよばれるものの中には、に由来するものや地下茎に由来するものがあり、植物形態学的には以下のように分けられる。

2a. シベリアツルボキジカクシ科)の球根(鱗茎)
2b. クロッカス (アヤメ科) の球根(球茎)
2c. シクラメン (サクラソウ科) の球根(塊茎)
2d. アヤメ属 (アヤメ科) の球根(根茎)
2e. ダリア (キク科) の球根(塊根)
鱗茎(りんけい、bulb)(図2a)
短い地下茎を中軸とし、周囲に肉質の(鱗茎葉; bulb leaf)が多数密生しているものは鱗茎とよばれる[4][3][8][9][10]。鱗茎の主体は茎ではなく、葉(鱗茎葉)である。チューリップユリ科)やダッチアイリスアヤメ科)、ヒヤシンスキジカクシ科)、アマリリススイセンタマネギヒガンバナ科)の鱗茎では、鱗茎葉が重なり合い、最外層が薄皮で覆われている[4]。このような鱗茎は層状鱗茎または有皮鱗茎(tunicated bulb)とよばれる[4]。一方、ユリ属ユリ科)の鱗茎では鱗片状のはがれやすい鱗茎葉が瓦状に重なっており、鱗状鱗茎または無皮鱗茎(non-tunicated bulb)とよばれる[4][1]ラン科において、地下茎ではなく地上茎の一部が肥大したものは、偽鱗茎(仮鱗茎、pseudobulb; 偽球茎、擬球茎、偽球、pseudocorm)とよばれ[9]、単にバルブとよばれることも多いが[11][12]、bulb(鱗茎)とは異なり茎自体が肥大したものであり、むしろ下記の球茎や根茎に似ている[13]。園芸においては株分けなどに用いられる。
球茎(きゅうけい、corm)(図2b)
主軸の基部に形成され、球形や卵形に肥大した地下茎は球茎とよばれる[4][3][9][10][14][15]。ふつう単一の芽をもつ[16]。各節に薄皮がつき、球茎全体を覆っている[4][17]。観賞植物としてはグラジオラスクロッカスフリージアアヤメ(いずれもアヤメ科)など、野菜ではサトイモコンニャクサトイモ科)などが球茎を形成する[4][1]
塊茎(かいけい、tuber, stem tuber)(図2c)
根茎に側生または先端に形成され、球形などに肥大し薄皮に包まれていない地下茎は、塊茎とよばれる[4][3][9][10][18]。ふつう複数の芽をもつ[16]。観賞植物ではアネモネキンポウゲ科)、シクラメンサクラソウ科)、球根ベゴニアシュウカイドウ科)、グロキシニアイワタバコ科)、カラジウムサトイモ科)、野菜ではジャガイモナス科)、キクイモキク科)などが塊茎を形成する[4][19][20]ヤマノイモなどヤムイモヤマノイモ科)の「イモ」は基本的には塊茎であるが、全面に根を生じるなど典型的な塊茎とは異なる特徴をもつため、担根体 (rhizophore) ともよばれる[4][16][21]。ただし、この構造はヒカゲノカズラ綱イワヒバ属ミズニラ属に見られる担根体とは全く異なる構造である[22]
根茎(こんけい、rhizome ライゾーム[2]、root stock)(図2d)
上記の鱗茎、球茎、塊茎のような特殊化が見られない地下茎は、根茎とよばれる[4][9][10]。地中を水平または垂直に伸び、球状にはならず、全体的に肥大している[4][9]。観賞植物ではカンナカンナ科)、ジャーマンアイリスアヤメ科)など、野菜ではハスレンコン)、ショウガなどがある[4][2][1]。鱗片葉が多数形成されて細長い松かさ状になったものは、尾状地下茎 (scaly rhizome) とよばれ、アキメネス属 (Achimenes) などイワタバコ科に見られる[4]。また根茎の節間が膨れて全体が念珠状になったものは念珠茎や念珠状地下茎 (ringed stem) とよばれ、リボングラスイネ科)やチョロギシソ科)に見られる[4]。念珠茎は塊茎に分類されることもある[9][1]
塊根(かいこん、tuberous root, root tuber)(図2e)
根の一部が肥大化したものは、塊根とよばれる[4][2][23][24]。観賞植物ではダリアキク科)、ラナンキュラスキンポウゲ科)など、野菜ではサツマイモヒルガオ科)、キャッサバトウダイグサ科)などがある[2][1]

木子

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3. Oxalis inaequalis (カタバミ科) の小鱗茎

園芸分野において、地下茎に形成された小さな球根は、木子[注 1](きご)と総称される[4][26]。木子の中には、ユリ属ユリ科)において地下茎の葉腋に形成される小鱗茎(bulbil; 図3)や、グラジオラスアヤメ科)において球茎の子球(下記参照)基部につくられる小球茎(small cormel)などがある[4]

更新

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4. 複数の子球を形成したチューリップ

球根の中には、植えつけ時の球根(母球)がやがて消耗して新たな球根(子球)が形成されるもの(図4)と、母球が更新されずに維持されるものがあり、前者を更新型、後者を非更新型という[4][27][28]チューリップユリ科)やダッチアイリスアヤメ科)、ニンニクヒガンバナ科)の鱗茎アネモネキンポウゲ科)やカラジウムサトイモ科)、ジャガイモナス科)の塊茎は更新型であり、ヒアシンスキジカクシ科)やスイセンタマネギヒガンバナ科)の鱗茎、シクラメンサクラソウ科)や球根ベゴニアシュウカイドウ科)の塊茎は非更新型である[4][28]

栽培の場合、自然に母球から別れた、または人為的に母球から切り離した子球を利用し、このことを分球という[29][3]。母球と子球は遺伝的に同一であり、分球は株分けに相当する[29]。子球に木子(上記参照)が付随している場合は、そのまま子球についたままで植えつけることで、次期にはこの木子が大きくなって繁殖に使える[29]ヒアシンスアマリリスでは、母球を切断したり切傷をつけて人為的に子球を発生させることもある[3]

植えつけ時期

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5. チューリップ (ユリ科) の栽培

球根は、植えつけ時期により、春植え、夏植え、秋植えに分類される[1][30][31]

春植え球根(春植球根[3]
春分のころから5月上旬に植えつけるもの。主に熱帯地方原産であり、寒さに弱く、降霜すると地上部が枯れる。ダリアキク科)、グラジオラスアヤメ科)、チューベローズキジカクシ科)、アマリリスヒガンバナ科)、カンナカンナ科)などがあり、また室内栽培専用のグロキシニアアキメネスイワタバコ科)、球根ベゴニアシュウカイドウ科)、カラジウムサトイモ科)なども春植え球根である[1][30][31]
夏植え球根
秋植え秋咲き球根ともいう。しばしば秋植え球根にふくめられる[30]。8月下旬から秋分のころに植えつけ、晩秋から初冬に開花するもの。ステルンベルギア(ヒガンバナ科)、イヌサフランイヌサフラン科)、サフラン(アヤメ科)など[1][31]
秋植え球根(秋植球根[3]
10月から11月に植えつけ、冬の寒さに感応して、花芽分化、茎葉の伸長が起こり、翌年の春から初夏にかけて開花するもの。耐寒性種にチューリップ(図5)、ユリユリ科)、ヒヤシンスムスカリシラー(キジカクシ科)、クロッカスダッチアイリス(アヤメ科)、スイセン(ヒガンバナ科)、アネモネキンポウゲ科)などがあり、半耐寒性種にフリージアイキシアバビアナスパラキシス(アヤメ科)、ラナンキュラス(キンポウゲ科)などがある[1][30][31]

球根繁殖

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5. 球根の植えつけ

球根によって植物を増やすことを、球根繁殖という[29]。球根の植えつけでは、地植えでは一般に深さは球根の高さの2–3倍、間隔も球根の直径の2–3倍とされる[29]。植えつけ前に、殺菌・殺虫剤で消毒することもある[31]。また、ヒアシンスキジカクシ科)やクロッカスアヤメ科)などでは、土を使わずに水だけで栽培することがあり、水栽培とよばれる[32]

球根には休眠期があり、種子と同様に保存でき、また種子よりも大きいため扱いが簡便である[29]。一般的な種子とは異なり、親植物のクローンであるため、親植物と同じ形質を維持できる[29]

球根植物の生育が終わった後には、球根を掘り上げて次期の植えつけまで貯蔵する[3]。春植え球根は凍らないように保温して、秋植え球根は涼しい場所で乾燥しておく[3]

脚注

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注釈

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  1. ^ 「もくし」と読んで「木の実」を意味することもある[25]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j 平城好明 (1984). “太るのが一番 球根類”. In 日本放送協会. これだけは知っておきたい 園芸の知識. 別冊NHK趣味の園芸. NHK出版. pp. 16–17. ISBN 978-4-14-645713-3 
  2. ^ a b c d e 大久保敬「生物コーナー 球根の休眠 植物の生活環をどうとらえるか」『化学と生物』第33巻第9号、1995年、582–584頁、doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.582NAID 10004973043 
  3. ^ a b c d e f g h i j "球根". 改訂新版 世界大百科事典. コトバンクより2024年7月22日閲覧
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 土橋豊 (2019). “球根”. 最新園芸・植物用語集. 淡交社. p. 81–83. ISBN 978-4473042668 
  5. ^ "球根類". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2024年7月26日閲覧
  6. ^ 青葉高 (1981). “タネとタネイモ”. 野菜: 在来品種の系譜. 法政大学出版局. pp. 40–42. ISBN 978-4588204319 
  7. ^ 山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦, ed (2004). “イモ類”. 新編 農学大事典. 養賢堂. pp. 475–482. ISBN 978-4-8425-0354-7 
  8. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “鱗茎”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1473. ISBN 978-4000803144 
  9. ^ a b c d e f g 清水建美 (2001). “地下茎”. 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 204–208. ISBN 978-4896944792 
  10. ^ a b c d 原襄 (1994). “地下茎”. 植物形態学. 朝倉書店. pp. 30–31. ISBN 978-4254170863 
  11. ^ 沖田好弘 (1982). 野生らん (カラーブックス 585). 保育社. pp. 111–112. ISBN 978-4586505852 
  12. ^ 大場良一 (監修) (2010). 失敗しない洋ラン入門. 主婦の友社. p. 8. ISBN 978-4072751510 
  13. ^ 熊沢正夫 (1979). “ラン科の偽球茎”. 植物器官学. 裳華房. pp. 155−156. ISBN 978-4785358068 
  14. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “球茎”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 309. ISBN 978-4000803144 
  15. ^ 球茎. コトバンクより2024年7月25日閲覧
  16. ^ a b c 寺林進 (2013). “生薬の基原, 特に薬用部位および基原植物の学名について”. 日本東洋医学雑誌 64: 67-77. doi:10.3937/kampomed.64.67. 
  17. ^ 吉田宗弘 (2018). “日本人とイモ”. 食生活研究会誌 38. http://ku-food-lab.com/wp/wp-content/uploads/2019/07/2774f33ed7e947fb03c1d40880e92a23.pdf. 
  18. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “塊茎”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 179. ISBN 978-4000803144 
  19. ^ "ジャガイモ". 改訂新版 世界大百科事典. コトバンクより2024年7月25日閲覧
  20. ^ "キクイモ". 改訂新版 世界大百科事典. コトバンクより2024年7月25日閲覧
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  22. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “担根体”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 883. ISBN 978-4000803144 
  23. ^ 清水建美 (2001). “根の分類”. 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 236–246. ISBN 978-4896944792 
  24. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “塊根”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 180. ISBN 978-4000803144 
  25. ^ "木子". 普及版 字通. コトバンクより2024年7月25日閲覧
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  28. ^ a b 山上睦 (1998年). “ジャガイモは根っこか、それとも茎か?”. 環境研ミニ百科 37. 環境科学技術研究所. 2024年7月25日閲覧。
  29. ^ a b c d e f g 土橋豊 (2019). “球根繁殖”. 最新園芸・植物用語集. 淡交社. pp. 208–209. ISBN 978-4473042668 
  30. ^ a b c d 土橋豊 (2019). “球根植物”. 最新園芸・植物用語集. 淡交社. pp. 54–56. ISBN 978-4473042668 
  31. ^ a b c d e 球根の基礎知識”. コメリ. 2024年7月26日閲覧。
  32. ^ "水栽培". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2024年7月26日閲覧

関連項目

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