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中国供給過剰、世界が警戒…EVなど価格競争激化で日本への影響は?

中国供給過剰、世界が警戒…EVなど価格競争激化で日本への影響は?

業界からは中国の過剰生産の影響を懸念する声が上がる(日本製鉄東日本製鉄所君津地区の高炉)

欧米諸国を中心に、中国による供給過剰問題への警戒が強まっている。中国は電気自動車(EV)や太陽光パネルなどを戦略製品に位置付け生産拡大を続けるが、内需ではカバーしきれず海外流出が増加。特に日本にとっての重要市場である東南アジアをはじめ新興国での価格競争が激化している。米国やカナダは関税措置などの対抗策を打ち出すが、問題は長期化するとの見方もある。自動車や鉄鋼などの業種では競争力への影響が懸念される。(特別取材班)

欧米、関税引き上げで対抗

世界が過剰生産に対する警戒を鮮明にしたのは、6月に開かれた先進7カ国(G7)首脳会合だ。中国を念頭に、政府による企業への補助金で安価な製品が過剰に生産され、市場をゆがめていると指摘。共同声明では問題への対処に向けて各国の協力を強めることで合意した。

事実、中国の生産拡大の勢いは著しい。例えばEVで見ると、調査会社のマークラインズによれば、2018年に52万6951台だった比亜迪(BYD)の生産台数は、23年に5・7倍の304万5304台まで伸びた。今やEV市場シェアでは米テスラに次ぐ存在感を示している。

ただ市場への影響は無視できない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによれば中国が24年1―6月期に輸出したEV、リチウムイオン電池、太陽光パネル、鋼材の数量は前年同期比で増えているのに対し単位当たりの価格は軒並み下落。鋼材で約30%、太陽光パネルは45・9%落ち込んだ。同社の丸山健太副主任研究員は「国内需要で吸収しきれなかった分が大量に輸出に回ったと考えられる」と分析する。

こうした状況を受け、各国・地域は対抗措置に乗り出した。米国やカナダ、EUはEVに対する高い関税をかけて中国製品の締め出しを強化。米国は鉄鋼製品を対象に、中国産の製品がメキシコ経由で米国に迂回(うかい)輸入されないようにする措置を取り入れた。この流れに沿う形で、中南米諸国でも関税引き上げの動きが出始めている。

日本、各国・地域と連携

日本はどうか。過去からも不当に安い価格で国内市場に流入する鉄鋼製品などに対しアンチダンピング措置を講じてきた。ただ現在の過剰生産問題で対象となっている太陽光パネルなどは中国に調達を頼っている部分もあるほか、EVの流入などは起きておらず「直接の影響は大きくない」(経済産業省幹部)のが現状。

影響が大きいのは東南アジア市場の動向だ。経産省の幹部は「日系メーカーの競争力が高い第三国の市場を奪われるリスクは警戒すべきだ」と話す。ただ国外の事案のため、直接の対抗策は講じられない。日本企業の競争力に資する政策支援を行っていくほか、世界の大部分が世界貿易機関(WTO)のルールの上で成り立っている事実を踏まえ、各国・地域との仲間づくりをしながら公正な貿易を訴える姿勢を強化せねばならない。また必要があれば「アンチダンピングをツールとして活用すべきだ」(経産省幹部)。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの丸山副主任研究員は、中国の内需拡大による過剰生産の解消は一朝一夕には進まないとした上で「中国は補助金を抑制するなど産業政策を調整するほか、内需拡大による過剰生産解消の道筋を明確化し、問題に前向きに対応する姿勢を見せることが重要だ」と指摘する。インドネシアやベトナムなど東南アジアでも中国への対抗措置を講じる動きが出始めており、潮目は変わりつつある。市場をゆがめる国策補助金のあり方などについて議論を深め、世界全体で“ノー”を突きつける体制作りが重要になる。

自動車/東南ア市場悪化、パイ奪われる

中国からの新エネルギー車(NEV)の輸出や現地生産が加速している一方、米国や欧州などが中国製EVへの関税措置を強化しており、東南アジア市場への流入に拍車がかかりそうだ。かつて日本の自動車メーカーが牙城としてきた市場が切り崩されており、事業の縮小を余儀なくされている。

中国・比亜迪(BYD)は7月、タイにEVの新工場を完成した。同社初の東南アジアでの工場で年産能力は15万台。22年11月のタイ市場参入以来販売を伸ばしており、足元で新車販売台数シェアで約5%を占める。経済成長の鈍化やローン審査の厳格化などで市場が停滞する中で存在感を高めている。

一方で日本勢は苦戦を強いられている。市場競争の激化を受けホンダはタイに2カ所ある完成車工場を25年内に集約する。アユタヤ工場での完成車生産を終了し、プラチンブリ工場に機能を移管。同国での生産能力を現行比約6割減にする。

SUBARU(スバル)はタイでの現地生産を段階的に終了し25年以降は日本からの輸出に切り替える。スズキも完成車工場を25年末までに閉鎖することを公表している。

鉄鋼/安価材流入に危機感

中国の過剰生産問題は鉄鋼業界にとっても懸念材料の一つだ。不動産市況の低迷で鋼材需要が低水準で推移しているにもかかわらず、中国メーカーが生産量を増やし続け、国内で消費しきれない余剰品が東南アジアなど周辺国に流出。中国の安価な輸入材によって国際市況が停滞しているからだ。

日本国内は鉄鋼メーカーの戦略で価格競争に巻き込まれず他のアジア地域と比べ高値水準を維持するものの、足元で為替が円安から円高傾向に振れている。中国からの安価な輸入材がより流入しやすくなる環境下になれば、国内相場の下押し圧力が強まるリスクがある。 

熱延薄板を扱うある国内流通業者は「国内材と比べて2割ほど安い中国メーカー製の板が日本市場に多く入ってきている」とし、危機感を募らせる。SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストは今後について「中国側が何らかの政策を打つ“ウルトラC”がない限り、当面、過剰生産は続くだろう」と見通す。

中国の動きを踏まえ、米国など各国が関税の引き上げ策などを講じる一方、日本は現時点では明確な対策を打ち出していない。業界関係者からは「日本も人並みの防御をする必要がある」(日本製鉄の森高弘副会長)と指摘する声が上がる。

造船/ゼロエミ船の開発強化

海外の調査会社によると、23年に中国造船業の世界シェア(建造量、総トン)は50%を超えた。日本はわずか15%。日本は品質、燃費などで他国に負けない国際競争力を持つが「競合国では造船業への巨額な公的支援などを続けている。歪んだ競争環境は変わらず、わが国の造船業界に大きな影響を与えている」と日本造船工業会の金花芳則会長は警鐘を鳴らす。

自国の貨物を自国建造船で輸送する「国輪国造」を掲げる中国。06―13年に造船業界への参入・拡大を目的に11兆円規模の巨額の補助金がつぎ込まれたとされる。

足元でも建造能力を拡張する動きが相次ぐ。国営造船グループの中国船舶集団(CSSC)がグループ企業を再編する形で設備を増強。民営大手の揚子江船業グループも液化天然ガス(LNG)運搬船などクリーンエネルギー船の新工場を建設する方向だ。

日本の大手造船所は直近で3年分を超える手持ち工事量を抱え、一息ついているが、需給バランスが崩れれば再び中国勢の安値攻勢にさらされる。造船各社はゼロエミッション船の早期開発やデジタル技術を活用した建造体制への変革のため、GX経済移行債などの政府支援を活用し、設備投資を進める構え。


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日刊工業新聞 2024年09月06日

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