テレビ東京の長寿特番「激録・警察密着24時‼」(2023年3月28日放送)が、事実誤認や過剰演出があったとして、今年5月に制作中止を決めた。裏側にはどんな事情があるのか。元テレビ東京社員で桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「警察密着番組はテレビ局に都合のいい『おいしいコンテンツ』になっている。これはテレビ東京だけでなく、どのテレビ局も直面している『企画不足』という深刻な問題の表れだ」という――。

テレ東社長が「激録・警察密着24時‼」の制作中止を宣言

テレビ東京が2023年3月に放送した「激録・警察密着24時‼」が大きな波紋を呼んでいる。社長の石川一郎氏が「制作中止」を宣言したことで、2005年から20年近く続いた長寿番組に終止符を打つことになったのと同時に、他局の民放に横並びで存在する同じような「警察密着モノ」の存続にも影響する事態に発展しているからである。「警察密着モノ」は、各局が「ドル箱コンテンツ」として重宝している「マグロ漁」「大家族」と並ぶ不定期の特別番組である。

石川氏は日本経済新聞出身とあって危機管理意識が強いが、今回の事件は防げなかった。しかし、このような問題はテレ東だから起こったことではない。どこの局でも起こり得ることなのだ。それは、今回の事件がテレビ局の構造的欠陥に起因しているからである。

問題となっているポイントを整理してみよう。

番組内でアニメ「鬼滅の刃」に絡む不正競争防止法違反事件を取り上げた際、4人が「逮捕された」と放送したが、その後、3人が不起訴になったことには言及しなかった。不起訴ということは無罪どころか裁判にもなっていない。それをあたかも「犯人」であるかのように放送した。

この4人の行為を指して、「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といったナレーションをつけたり、捜査シーンの時系列に誤解を与えたりする演出は、「過剰演出」や「事実誤認」ではないかと指摘されている。

BPOが「審議入り」を表明

さらには、番組に登場した会社が「鬼滅の刃」のキャラクターを描いた商品を中国へ発注していたと放送したが、そのような事実はなかった。また、強制捜査後もこの商品が通信販売などで売られ続けていると紹介したが、番組に登場した会社とは無関係だった。

関係者からの申立てを受けたBPO(放送倫理・番組向上機構)は6月18日、この番組を「審議入り」することに決めた。

BPOとは「放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、第三者の機関」である。その目的は「主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、放送界全体、あるいは特定の局に意見や見解を伝え、一般にも公表し、放送界の自律と放送の質の向上を促す」(HPより)ことである。

今後、BPOの第三者委員会によって徹底的な調査がおこなわれる。これは番組を放送したテレビ局や制作担当者にとって大変不名誉なことだ。また審議の結果、この番組が「放送倫理違反があった」もしくは「放送倫理上問題あり」と結論づけられれば、大きな「汚点」となる。