失敗した資金調達、品質問題の数々。破産申請したフィスカーの波乱に満ちた歴史

経営難にあったEVメーカーのフィスカーが破産申請に追い込まれた。意欲的な電気SUVを投入していたものの、数々の品質問題や大手メーカーとの提携失敗などが重なった結果だ。
経営破綻したフィスカーの電気SUV「Fisker Ocean」。
経営破綻したフィスカーの電気SUV「Fisker Ocean」。Photograph: Angel Garcia/Bloomberg/Getty Images

電気自動車(EV)の新興メーカーであるフィスカーが米連邦破産法第11条の適用を6月17日(米国時間)に申請したことで、フィスカーの将来をめぐる数カ月に及ぶ憶測は終止符を打たれた。3月に唯一のモデルの生産を停止していたこのEVメーカーは、いまは資産売却と債務再編に力を注いでいる。

電気SUV「Fisker Ocean(オーシャン)」を知る人にとって、フィスカーが経営破綻というニュースは予想できたことかもしれない。フィスカーのOceanに2023年7月に試乗した際には、テスト車両が明らかに未完成だったことで評価できないという前代未聞の状況に置かれた。

このとき試乗したOceanにはペダルからきしむような音が出ていたほか、フロントガラス以外の窓を全開にできる「カリフォルニア・モード」が動作せず、途中で車両の交換を余儀なくされている。そしてハンドリングもお粗末といえるものだった。

製造上の問題と資金繰りの悪化から、フィスカーは2月の四半期決算の時点で、あと1年やっていくだけの十分な資金が残っていないかもしれないと認めざるを得なかった。そこで、とりあえず6週間にわたって生産停止とすることに決めたのである。

フィスカーが破産申請を検討しているという報道が出始めたのは、そんな折のことだった。フィスカーの昨年の売上高は2億7,300万ドル(約430億円)だったものの、負債は10億ドル(約1,550億円)を超えていた。しかも事業継続の前提に「相当な疑義がある」との警告を出していたが、生産が再開されることはなかったのである。

失敗に終わった資金調達、数々の品質問題

自動車デザイナーのヘンリック・フィスカーが立ち上げたこの会社は、何とか活路を見出そうともがいていた。こうしたなか、ある大手自動車メーカーとの交渉にこぎつけた。出資を受け、EVのプラットフォームを共同開発し、北米での生産資金を工面してもらおうという算段である。

相手が日産自動車だったとされるこの交渉は、残念ながらうまくいかなかった。その結果は、フィスカーが発表した声明からも明らかだった。声明には、「どんな取引であれ、デューデリジェンスの完了、適切な最終契約の交渉と締結など、重要な条件をクリアできるかどうかが大前提となる」と書かれていた。交渉が頓挫したことで、フィスカーは3億5,000万ドル(約550億円)の資金調達のチャンスを逃したとも報じられている。

フィスカーは2023年8月にはピックアップトラックや5人乗りオープンカーなど4モデルを発表して攻勢をかけていた。

Photograph: Kyle Espeleta/Fisker

デラウェア州で申請された連邦破産法第11章の文書によると、フィスカーの資産は5億ドル(約790億円)から10億ドル(約1,550億円)、負債は1億ドル(約155億円)から5億ドル(約790億円)と見積もられている。また、フィスカーの債権者の上位20社には、アドビ、グーグル、SAPなどの名前が連なっている。

フィスカーの急転直下ぶりは、つい最近の2020年に成し遂げた快挙からは想像もつかない。当時のフィスカーは時価総額29億ドルで株式公開を果たし、10億ドル以上の現金を手にしていたのだ。

それ以降、米国のEV市場全体で販売のペースが鈍化しているなか、フィスカーは特に深刻な影響を受けてきた。自動車部品と受託生産の大手でカナダに拠点をもつマグナ・インターナショナルに生産を“丸投げ”(生産は傘下のマグナ・シュタイヤーが担当)したことで、品質管理が行き届かなくなってしまったのである。

すると、電気SUVであるOceanの製造面でもソフトウェア面でもトラブルが続出するようになった。このモデルは発売以降、品質問題に悩まされ続けている。走行中にいきなり電源が落ちる、キーフォブ(小型のリモコンキー)やセンサーが誤作動する、挙げ句の果てにはボンネットが走行中に開いてしまった──などのクレームがオーナーから相次いだのだ。

Oceanの数々の“恥ずかしい”トラブルは、フィスカーの従業員までも襲った。役員であるウェンディ・グリューエルのOceanは、納車された当日に公道で動かなくなってしまったという。テック系ニュースサイト「TechCrunch」が入手した内部文書のキャッシュデータによると、フィスカーの最高財務責任者(CFO)兼最高執行責任者(COO)で共同創業者ヘンリック・フィスカーの妻でもあるギータ・グプタ・フィスカーまで、Oceanの運転中にまさかの電源停止に見舞われた。

波乱に満ちた歴史

フィスカーの歴史は、Oceanを発売する前から波乱に満ちていた。かつてBMWやフォードを経てアストンマーティンでデザイン・ディレクターを務めた創業者のフィスカーが、自身の名を冠したクルマを世に送り出したのは10年以上も前のことである。

プラグインハイブリッドの高級スポーツセダンだった「Fisker Karma」は消費者情報誌『Consumer Reports』のテストで散々な結果を出したり、火災に見舞われたりと、問題に悩まされ続けた。そして2013年、当時のFisker Automotiveは破産申請に追い込まれたのである。

当初のフィスカーは直販モデルを採用していたが、昨年生産した10,000台以上のEVのうち顧客に引き渡せた車両は半分にも満たなかった。このため、今年1月には従来型のディーラー販売に戻さざるを得なくなった。さらに3月には在庫を何とかさばくために、Oceanの価格を大幅に引き下げる決断を下している。

ちなみに今回の破産申請は、フィスカーがOceanを発売してからわずか1年後のことだった。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちら


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