史上最大の闇サイト「Silk Road」から、30億ドル超ものビットコインを盗んだ男の手口

史上最大の闇サイト(ダークウェブ)として知られる「Silk Road(シルクロード)」が摘発されてから約9年。この闇サイトから50,000ビットコイン(当時のレートで約33億6,000万ドル相当)以上を盗んだ男が罪を認め、その手口が明らかになった。
Torn page of black paper revealing George Washington's face on United States dollar bill.
Photograph: D-Keine/Getty Images

史上最大の闇サイト(ダークウェブ)として知られる「Silk Road(シルクロード)」は、あらゆる政府の規制を回避する無秩序な裏社会経済になるように設計されていた。ところが、摘発されてオフラインになって数年が経ったいま、Silk Roadは米内国歳入庁(IRS)に恩恵をもたらし続ける存在であることが証明されている。

関連記事:史上最大の闇サイト「Silk Road」をめぐる2つの物語:ダークウェブの創世と崩壊を描いた新連載スタート!

ジョージア州に住むジェームス・チョンという男が、Silk Roadから9年前に50,000ビットコイン(当時のレートで約33億6,000万ドル相当)以上を盗んだ通信詐欺の罪を認めたことを米司法省が発表したのは、2022年11月7日(米国時間)のことだ。司法取引の一環として司法省は、チョンが隠し持っていた大量のビットコインを没収している。その額をビットコインが没収された2021年末時点の評価額で換算すると、司法省が過去に押収したあらゆる種類の通貨で最大の押収額となった。

裁判記録によると、見つかったビットコインはポップコーンの缶に隠さた「シングルボードコンピューター」に保管されていたという。チョンの自宅のバスルームのクロゼットの床下にあった金庫の中からは、このポップコーン缶のほかに60万ドル以上の現金や貴金属も見つかっている。

盗まれた仮想通貨が相次いで押収

新たに公表されたこの事件は、IRS犯罪捜査部門(IRS-CI)の功績に新たな成功の記録を刻む結果になった。この数年でIRS-CIは、たいていはブロックチェーン分析会社のChainalysisと協力して仮想通貨の追跡技術を用い、不正に取得された記録的な量のビットコインと、それを集めた疑いのあるハッカーやマネーロンダリング犯を突き止めてきた。

隠されていた10億ドル(約1,470億円)相当以上のコインをIRS-CIに引き渡したSilk Roadのハッカーは、チョンで2人目となる。この前年には別の人物(氏名不詳)が、この闇サイトから盗んだ約 70,000ビットコインの没収に同意している。コインの額としては今回よりも多い最高額だが、当時のビットコインの為替レートはいまよりも低かったので、評価額としては10億ドル程度だった。

そして今年になって、どちらの記録も再び破られた。IRS-CIは、暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)の取引所「Bitfinex」から45億ドル(約6,600億円)相当の仮想通貨を盗んだ容疑者として、ニューヨークで2人のマネーロンダリング犯を起訴したのである。

「最先端の仮想通貨追跡技術と昔ながらの優秀な警察活動のおかげで、捜査当局は隠匿されていたこの素晴らしい犯罪収益を見つけ出し、取り戻すことができました」と、ニューヨーク州南部地区の検察官を務めるダミアン・ウィリアムズ弁護士は、この最新の起訴と10億ドルを超える押収額について声明を出している。「今回の事件は、どんなに巧妙に隠されたお金であってもわたしたちが追跡を止めないことを示しています。たとえそれがポップコーン缶の底に隠された回路基板であっても同じです」

捜査官が33億6,000万ドル相当のビットコインが入ったデバイスが入ったポップコーン缶を発見した隠し金庫。

Photograph: Department of Justice

Silk Roadのバグを悪用

Silk Roadから50,000ビットコイン以上を盗んだチョンの事件の詳細が書かれたIRS-CIの宣誓供述書によると、チョンは12年にこのダークウェブの脆弱性を発見したことで、自分がつくった口座から預けたコイン以上のコインを引き出せるようになったという。

チョンは「thetormentor」や「dubba」などの名でSilk Roadに次々とアカウントを登録し、それぞれのアカウントのビットコインのウォレットにいくらかのコインを預けた。その後、預けた全額を1秒以内に何度も繰り返し引き出すやり方で、自分の金を数倍に増やしたという。要求された金がまだユーザーのアカウントに存在することを確認する前に連続した引き出しを許可してしまう、Silk Roadのバグを利用したようだ。

「このやり方で、(チョンは)それぞれの不正なアカウントを使って数日の間にSilk Roadから少なくとも約50,000ビットコインを移動させた」と、IRS-CI特別捜査官トレバー・マカリーナンが署名した宣誓供述書には書かれている。

チョンはそれから9年にわたり、この巨額の収入をほとんど使わずに放置していたようだ。おそらく、伝統的な通貨に換金することで捜査当局の注意を引くことを恐れたのだろう。

しかし、そのような素晴らしい自制心も無駄だったようだ。IRS-CIの捜査官たちはチョンのコインを追跡し、ある仮想通貨取引所(名称不詳)に設けられた彼のアカウントにたどり着き、その身元を明らかにしたのである。

チョンの事件は、その前のSilk Roadのハッカーの話とそっくりだ。裁判資料には「人物X」とだけ記されているこのハッカーも、Silk Roadの脆弱性を悪用して約70,000ビットコインを引き出し、7年以上も保有していた。

ただし、おそらく巨額な仮想通貨資産の扱いを巡る交渉の先行きがまだ不透明なことから、この人物Xに対する告訴内容は公表されていない。これに対してチョンは現在、20年もの禁固刑を伴う通信詐欺の有罪判決に直面している。

もうひとつの奇妙な話

Silk Roadは13年末の大規模な法執行措置によって解体され、サイトの作成者であるロス・ウルブリヒトが逮捕された。ウルブリヒトは終身刑の判決を受けると共に、賠償金として1億8,300万ドルの支払いを命じられている

ところが、さらにもうひとつ奇妙な話がある。人物XがSilk Roadから奪い、のちに押収された70,000ビットコインの一部は、ウルブリヒトが残りの金額を請求しないことを条件に、彼の負債全額の返済に充てられたのだ。

Silk Roadから盗まれたビットコインを使って、Silk Road作成者の賠償金が支払われるとは奇妙な展開に思えるかもしれない。だが、IRS-CIが仮想通貨を押収することで米財務省に定期的に数十億ドルが流れ込む時代には、いくらでもありそうな話だろう。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による犯罪の関連記事はこちら「Silk Road」の関連記事はこちら


Related Articles

次の10年を見通す洞察力を手に入れる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。毎週開催のイベントに無料で参加可能な刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら