「Sonos Ace」は着け心地が快適で、最高レベルの音質を楽しめるヘッドフォン:製品レビュー

「Sonos Ace」が、ソノス初のワイヤレスヘッドフォンとして発売された。ソニーやアップルのハイエンドな製品に引けをとらない機能を備え、控えめなデザインが魅力的だが、昔ながらのソノスユーザーはWi-Fiに対応していない点が気になるかもしれない。
「Sonos Ace」レビュー:着け心地が快適で最高レベルの音質を楽しめるヘッドフォン
Photograph: Sonos

自宅のどの部屋でも音楽を聴きたいと思うとき、ソノスの人気が高い理由がわかる。1回設定したらあとは何もしなくていい、複数の部屋で音楽を流せるマルチルームのオーディオシステムに関して、同社はほかのどのメーカーよりも簡単に使えるハードウェアとソフトウェアを提供しているからだ。スピーカーやサウンドバー(さらにはターンテーブルやネットワーク対応アンプまで)、ソノスは家中の壁に配線を通す“本物”のカスタムオーディオシステムに大金をかけたくない人たちの住空間を席巻している。こうした背景があるからこそ、少々高価なソノスのオーディオシステムが手ごろに感じられるのだ。

同じことが、ソノスが初めて手がけた450ドル(日本では74,800円)のヘッドフォン「Sonos Ace」にも言える。これはアップルが「AirPods Max」で切り開いた高価格帯に位置する製品で、ソノスが提供するほかの製品とも簡単に連携する。ただし、接続方式はWi-FiではなくBluetoothだ。

ソノスは「Sonos Roam」や「Sonos Move 2」のようなポータブルスピーカーにより、自宅で得られるような音楽体験を裏庭や砂浜にも持ち出せるようにした。とはいえ、Sonos Aceの発売をもって、同社はモバイル製品分野に本格的に参入したことになる。そしてこの製品の出来は基本的に素晴らしい。

Wi-Fi対応のソノス製ヘッドフォンを10年前から心底求めてきたオーディオオタクの期待に完璧に応えられるものではないかもしれないが、Sonos Aceはボーズやソニー、アップルの最上位機種と肩を並べる素晴らしいBluetooth対応のオーバーイヤー型ヘッドフォンである。高級ワイヤレスヘッドフォンを探しているなら、これも要検討の候補に入れるべきだ。

ソノス初のヘッドフォン

Sonos Aceは非常によく出来ている。付属のハードケースを開けると、柔らかい革に包まれた光沢のある金属製のバンドをもつオーバーイヤー型ヘッドフォンが現れる(Airpods Maxの奇妙で明らかに欠点は、ハードケースが付属していないことだ)。一般的な丸い形状で、人目を引かない。ソニーの「WH-1000XM5」に非常によく似た外観だ。

時代を超えて使えるシンプルなデザインは、洗練されていてプロ向けの佇まいだ。だから、どんな場でも浮かない。「そこにあることに気づかなかった」と言ってしまうような、ソノスのスピーカーの控えめなデザイン言語を踏襲しているのだ。派手なものが多い現代のヘッドフォン分野においては、待ちに待ったスタイルだと言える。ソノス製のスピーカーと同じく、色はマットなホワイトとブラックがある。

PHOTOGRAPH: PARKER HALL

イヤーカップの内側はそれぞれ異なる灰色になっており、それが左右を示している(濃い方が左、明るい方が右で、色弱の人や視力が低い人が識別するのに便利だ)。イヤーカップの外側、メッシュに覆われた複数のマイクの間に3つの操作ボタンが配置されている。交換可能なイヤーカップは磁石で取り外しができ、内部のメッシュカバーがヘッドフォンのドライバーにゴミが入るのを防いでいる。また、左下にはUSB Type-Cケーブル用のスロットがある。

スマートフォンとアプリ以外でヘッドフォンを制御するには、右のイヤーカップにある音量スライダーを使う。これを押すと音楽の再生と一時停止ができ、上下にスライドさせることで音量を調整できる。左のカップの下部には電源ボタンがある。右のカップの下部にも同じ大きさのボタンがあり、こちらはアクティブノイズキャンセリング(ANC)とアウェアモード(外界の音を取り込むトランスペアレンシーモード)の切り替えに対応している。ソノスのアプリを使い、ANCとアウェアモードをオフにすることも可能だ。

アプリのほかの設定には、低音と高音を調整できる基本的なイコライザー(EQ)、ヘッドフォンを外したときに音楽を一時停止する設定及び装着時における通話の応答に関する設定などがある。

一日中聴いても快適

Sonos Aceの重さは312gとやや軽めであることもあり、驚くほど付け心地がよい。また、イヤーカップとヘッドバンドがつながっている位置の設計も見事だ。ヘッドバンドがカップの中央をつないでいるので、中心に向かって適度な締め付けがある。これによりヘッドバンドの装着時の疲労が軽減され、眼鏡をかけていても快適に使えるのだ。これはAirPods Maxでも同じだったが、アップルの製品はより重く、頭を締め付ける力が強いように感じた。

ヘッドフォン批評家の誇張表現に思うかもしれないが、Sonos Aceは着けていることを忘れてしまうことが数回あった。それほど付け心地が抜群ということだ。また、搭載されているトランスペアレンシー機能とそれに関連するマイクの機能が非常に優れており、頭に何も着けていないと脳を錯覚させる奇妙な力を発揮している。ほかのトランスペアレンシー機能の性能が高いヘッドフォンで感じる、頭の周りを塞がれているような変な感覚は一切なかった。ヘッドフォンを装着したまま問題なく人と会話することもできた。これは、ほかのオーバーイヤーヘッドフォンの装着時には妙な感じがして、避けていたことだ(とはいえ、人と話をするときにヘッドフォンを外さないのは失礼だと思っている)。

また、市場でトップレベルのノイズキャンセリング機能をボタンを押してすぐに利用できることにも驚いた。ANCモードをオンにすると、世界の音量を9から1に下げたかのように感じる。空調の音や道路を走るクルマの音が消え、カチカチ鳴るメカニカルキーボードの音でさえペンでメモ帳に軽く触ったような音になるのだ。ノイズリダクションの性能はほかのトップクラスの製品と大差ない。ただし、ボーズのほうが高周波の音の処理でわずかに競合を上回っていると言える。

PHOTOGRAPH: PARKER HALL

それでもSonos Aceの性能は驚くほど競争力がある。特にほかの製品よりも低音域の遮断に優れていることがわかった。唯一苦手なのは、ペンがガラスに当たったときのような超高音だ。あまりに高周波なので対応が難しいのである。

Sonos AceはノートPCやスマートフォンなどのデバイスと簡単にペアリングできる。また、ヘッドトラッキング機能により、ヘッドフォンを聴いているというよりも、目の前に置かれた品質のよいスピーカーで音楽を聴いているかのような感覚になる。さらにこれは、アップルなどのメーカーが提供している同じような機能よりも疲れにくく感じた。音の残響をつくるだけでなく、目の前にある仮想空間の中心に音が届けられているように感じるのだ。

完璧なサウンド

Sonos Aceの優れた音は、左右のイヤーカップ内に配置された40mmのカスタムドライバーが生み出している。以前のソノス製品はややこもりがちな平坦な音だった。しかし、Sonos Aceは、同社の最近の製品である小型スピーカー「Sonos Era 100」やサウンドバー「Sonos Ray」と同じように、幅広い音域を明瞭かつ均一に再生してくれる。

このヘッドフォンはどんな音楽の視聴にも向いているが、わたしは特にベースが魅力的な楽曲を聴くことが好きだ。木のような質感を感じさせる、温もりのある表情豊かな音を提供するので、ファンカデリックのアイコニックな名曲「Can You Get to That」などの再生に向いていると感じた。

Beachwood Sparksの「Falling Forever」を聴くと、アコースティックギターやボーカルなどの音が幾重にも重なる楽曲の表現を通じて、このヘッドフォンの優秀さがわかる。バスドラムの音は力強く明瞭で、ギターの音は広がりつつもボーカルが引き立つバランスを保っている。非常にメリハリのある音の体験だ。高級な有線ヘッドフォンのような厳密な完璧さはないものの、音楽のエネルギーを十分に感じられる。各パートの音を簡単に聞き取ることができるが、無菌室ではなく、パブで聴いているような感覚になるのだ。

改善が期待されるアプリ

ソノス製品を初めて使う人は、AndroidおよびiOSアプリを通じて同社の製品を利用し始めることに不満を感じないだろう。しかし、昔からのユーザーはWi-Fiに対応していない点には失望するかもしれない。自宅にいるときでも、自分だけの専用空間をつくるためにヘッドフォンを使えないからだ。ソノスのアプリを使えばこれを実現できるものの、その場合はヘッドフォンをBluetooth経由でスマートフォンとペアリングする必要がある。この仕様は自宅にいるときはヘッドフォンを外して、Sonos製のスピーカーやサウンドバーを使ってほしいという同社の考えを表しているように感じる。

とはいえ、自宅にサウンドバーの「Sonos Arc」を導入している場合は、ヘッドフォンのボタンを押すだけで、音の再生を引き継ぐ設定も用意されている(Sonosはサウンドバー「Sonos Ray」にも対応する見通しだとしている)。これはつまり、子どもを寝かしつけるときにリビングルームのホームシアター用の包括的な音の環境から静かな環境へと簡単に切り替えられるということだ。ただし、この機能をアプリで設定する際、問題に直面している人もいるようだ。わたしも試そうとしたが、レビュー用に送られてきた本体とアプリのソフトウェアを何回か更新しても、手持ちのスピーカーと接続する際に問題が生じた。この機能が使えるようになったら実際に試して、結果を報告したい。

ソノスのアプリのバグは、既存のユーザーを悩ませている問題だ。わたしはソノスの手先ではないが、同社が近いうちに製品を改良し、すべてが正しく動くようにしてくれることを信じている。これまでもソノスはそうしてきたからだ。レビュー期間中にソノスがデバイスに一連のアップデートを施した点もこれを裏付けている。とはいえ、アプリを顧客に提供する前にしっかり機能を検証してほしかったとは思う。

PHOTOGRAPH: PARKER HALL

ソノスはいくつかの古いモデルの提供を終了しているが、ほかのスマートスピーカーやサウンドバーのメーカーと比べると、できるだけ長く製品を使えるようにしてくれている。

また、Sonos Aceに新機能を追加する壮大な計画があると同社は主張している。このDolby Atmos対応のヘッドフォンで音楽を聴くときでも、自分の部屋で何も着けずに聴いているかのように感じられるよう、音をマッピングする機能を搭載する見通しだというのだ。純粋なヘッドフォンの音と比べるとたいていの部屋は音響的に劣るので、この機能が本当に必要かどうかはわからないが、気に入る人もいるかもしれない。

個人的にはあまり使わないが、凝った機能がいくつかある。Dolby Atmos対応やヘッドトラッキング機能の連携はこの価格帯の製品に期待されている機能だ。とはいえ、アップルがどれだけこの機能を押し出そうと、ほとんどの場面、特に音楽を聴くにはあまり有用ではない。とはいえ、移動中にモバイル端末で映画をストリーミング再生する際はうまく機能する。非常に小さな画面でも没入感を得られるのだ。

一方でSonos Aceは、大きなサイレンなどの音に対して音量を自動で調整するANCやトランスペアレンシー機能は提供していない。ソニーの製品に搭載されている、ヘッドフォンを装着したまま会話ができる「スピーク・トゥ・チャット」機能(あるいは、手でイヤーカップを覆うと一時停止する機能)もない。わたしの場合、飛行機で飲み物を注文するときや、レビュー用にヘッドフォンを試すときくらいしか使わない機能なので、あまり問題には感じていない。

Sonos Aceの価格は高いが、ソノスが初めて手がけたヘッドフォンとしては素晴らしい出来である。高級ヘッドフォンを探しているソノスの新規ユーザーであれば、一度試してみる価値はある。ソノスの長年のユーザーにとっても間違いなくよい買い物になるはずだ。Sonos Aceの音質はAirPods Maxに匹敵し、快適さではそれを上回っている。また、ノイズキャンセリング機能はこれまでに聞いたなかでも最高品質だ。移動時や仕事に最適なヘッドフォンを探しているなら、現時点では最もおすすめできる製品だ。

◎「WIRED」な点
軽量設計。快適な形状記録フォームのイヤーパッド。ちょうどいい締め付け具合。優れたトランスペアレンシーモード。トップクラスのノイズキャンセリング機能。バッテリー持続時間は30時間。きれいな見た目。ハードケースが付属している。過度に低音が強調されていない、均一かつダイナミックなサウンド。

△「TIRED」な点
従来のソノス製品にあるWi-Fiの連携機能がない。高価。アプリは新しくなってからバグが多い。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)

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